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保護司のためのブックガイド(2)
お知らせ
2023.02.13
「罪の境界」薬丸岳著 幻冬舎
少年犯罪ものを多く手がける社会派ミステリー作家の最新刊(昨年12月発行)である。ただし、地方紙連載小説の単行本化であり、中国新聞SELECTでも2021年3月から1年余り連載された。読まれた方もいるだろう。
本の帯(腰帯)にあるうたい文句はこうだ。
「約束は守った……伝えてほしい……」。それが、無差別通り魔事件の被害者となった飯山晃弘の最期の言葉だった。自らも重傷を負った明香里だったが、彼女を助け、身代わりとなって死んでしまった飯山の言葉を伝えるために、彼の人生を辿り始める。この言葉は誰に向けたものだったのか、約束とは何なのか。決して交わるはずのなかった人生が交錯した時、慟哭の真実が明らかになる。
保護司は登場しない。更生保護がテーマでもない。それでもここで紹介する理由の一つは、物語の終盤になって「広島市南区皆実町四丁目」「段原南一丁目」などと実在する地名や、呉市の「大和ミュージアム」や「海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)」などの施設名が出てくるから。広島弁が飛び交うシーンもあり、広島の地は物語の重要な舞台となっている。
新聞連載小説らしく、場面転換のスピードやリズム感は小気味よい。とりわけ中盤以降は一気に読ませる。ただ、ストーリー展開はその分だけ、やや「出来過ぎ」の感も。
通り魔事件の加害者はしばしば「刑務所に入りたかった。相手は誰でも良かった」などと、訳の分からない動機を口にする。この物語では、その言葉の裏にある「心の傷」が重要な鍵となる。もちろん、だからといって、犯行の理不尽さ、おぞましさが正当化できるはずはないのだが…。