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連載「理不尽―ある解任騒動の真相」④自己取引は悪なのか
取り組み
2025.06.10
前回に続き「自己取引」をテーマにしたい。論点は二つに絞られるだろう。広島県保護司会連合会(県保連)と(株)広島千茶荘との間の取引が、果たして「違法」かどうか、そして「利益相反=県保連が損害を受けた」かどうか、である。
当時の県保連会長である八崎則男氏と県保連理事で広島千茶荘専務の吉川水貴氏の両氏を解任した動議(2023年3月16日)は、具体的な根拠や法律名を示さないまま「違法な利益相反取引」と決めつけた。
これに対し八崎氏と広島千茶荘はそれぞれ3通ずつ、動議に賛成した役員や、その後に発足した県保連執行部に対し、抗議の意味を込めて反駁文や質問状を送った。一度で済まなかったのは、埒が明かない回答が続いたためである。
例えば、反駁や質問はこんな具合にシンプルなものだった。
①「どうして県保連が会社法の適用を受けるのか?」(3月31日、八崎氏の反駁文)
②「当社が不当な利益を得たという事実無根の主張を重ねている」(4月27日、広島千茶荘の質問状)
一方、県保連側からの回答はこんな具合だ。
③「(県保連の)役員と県保連との取引は会務の公正を害する危険性があるので厳格に慎むべき」(5月12日、広島千茶荘への回答書)
④「(吉川氏の)解任は、取引によって利益を上げたか利益を上げていないかの問題ではなく、他の多くの理事から、自己取引する人は県保連の理事としてふさわしくないと思われている結果」(同上)
⑤「自己取引の禁止は、人の生活を規律する社会規範」(6月14日、八崎氏への回答書)
⑥「(例えば、法の)条文に書かれていなくても『人に会ったときは挨拶しましょう』というのは社会規範であり、これを慣習法、不文法という。自己取引の禁止は、私たちの行動を規律する慣習法または不文法である」(7月6日、広島千茶荘への回答書)
読んでお気づきだろう。県保連側は解任騒動以降、「違法」という断定的な言葉遣いは慎重に避けつつも、「社会規範」「慣習法」を持ち出すことによって、八崎氏や吉川氏に対し「社会のルールを守らない不届き者」という事実無根のレッテルを貼ろうとする姿勢は変えていないのだ。
さらに、開いた口が塞がらないのは「利益相反」をめぐる論法である。上記引用部分のうち、④をもう一度お読みいただきたい。言うに事欠いて「取引によって利益を上げたか利益を上げていないかの問題ではなく」と言い切っている。
「おいおい、そりゃあないだろう」とあきれるほかない。利益相反、すなわち県保連に損害を与えたという事実に反する理由で解任しておきながら、具体的な根拠を示せないことを詫びるどころか、利益なんてどうでもいい、と開き直ったのだ。
こうした不毛なやり取りを経て、2023年7月14日、当時の広島保護観察所長の立ち会いのもと、県保連執行部と解任された側の話し合いが持たれた。ここでは、出席した広島千茶荘社長(=吉川氏の兄)の話を一部引用して今回の稿を締めくくりたい。
「(私もある民間団体で冊子を発行した経験があるが)いいものを作ろうと思えば、(外部に任せたりせずに)自分たちでやる。会員でやることになる。(つまり)自己取引ということ。(会のみんなが)協力しないとできない。だから、自己取引のどこがどう悪いの? わしにはよう分からん」
「(県保連側が)自己取引の禁止は通念であるとか、コンプライアンスであるとか、大上段に振りかぶるのであれば、それは(広島千茶荘が県保連機関紙の編集を請け負った)2年前の話でしょ。(その間に)議論して軌道修正しておく(のなら分かるが)、ひたすら黙っておいて、2年たって(いきなり弟は)解任された。僕はそれを聞いて、びっくりたまげた。恐ろしい会じゃのうと思った」
<つづく>
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◎解任動議(一部抜粋)
議題1.八崎則男広島県保護司会連合会会長の解任の件
提案理由
(2)「ホームページ改善案」の業務執行の違法性
3)広島千茶荘は、理事で広報委員長の職にある吉川理事が役員をしている会社 である。よって千茶荘との取引は法で禁止されている自己取引と見なされるが会長はこれを認めている。
議題3.吉川水貴選任理事の解任の件
提案理由
吉川理事は「更生保護ひろしま」の編集委員であるところ、同理事は、自己が役員をしている広島千茶荘に対して、「更生保護ひろしま」の印刷業務を発注し、同社は毎月、県保連から支払を受けている。
又、「更生保護ひろしま」70周年記念特別号の作成を広島千茶荘が受注し、その作成費として140万円余の支払を受けた。
さらに「ホームページ改善」製作業務を受注し、多額の製作費が支払われている。
この千茶荘と県保連の取引は自己取引とみなされるものであり、利益が相反する違法取引である。よって解任を正当とする。
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◎参考
会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第108条の規定は、前項の承認を受けた同項第2号又は第3号の取引については、適用しない。
【編注】「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」第84条にも同様の規定があります。